〈一日目〉
渡船は一切利用せず、地磯のランガンを計画。フカセは荷物が多いため、フットワークは鈍重になること間違いなし。お金は底をついても釣りに関しての体力は底なし()。
まずは漁港でライトなショアジギング。フカセ釣り釣行であっても儀式なようなもの。巨大な亀とともに日の出を拝む。目論見通り佐藤が良型のサバを上げたのみでそれ以外は特に反応なし。移動しようとしたところ、軽トラのおっちゃんに話しかけられる。
「それは、危ないんじゃないのか(笑)」
いつの間にか、釣ったサバを三枚におろして刺し身を食す佐藤と平沢。二泊三日の釣行の初っ端にサバの生食は野生。もちろん僕は食べていない。
おっちゃんに風向きと入る磯の情報を教えてもらってランガン開始。しかし思っていたのと違う。浅い磯か、足場激高の崖が大半。風は少し騒がしいくらいでちょうどいいがウネリが半端ない。釣り場探しに苦労していると分厚い雨雲が空を覆いはじめ、あっという間に鈍色。突然の嵐で釣りはもちろんのこと釣り場偵察もままならない。泣きっ面にフグ状態でも諦めない男が一人。
「サーフでちょっと撃ってくるわ」
佐藤の後ろ姿は暴風の中に消えていく。平沢と僕は横風に揺さぶられる車内で待機。すぐ帰ってくるかと思いきや意外と粘る。そして魚を持った佐藤が帰ってきた。無論、サバである。
雨風が弱まるまでの長い長いドライブを経て風裏の漁港で夕まずめを迎え撃つも無念。やはりサバである。
一日目の結果を入力:「サバである」|
〈二日目〉
初日の消化不良を晴らすべく、空が明けきらないうちから慎重に磯にエントリー。もちろん、道具を持って降りる前に下見をして入れるかどうかを判断。安全第一。ようやくまともなフカセができそうな磯で店を広げて釣り開始。数投目でウキが消し込むがササヨおばさん(イスズミ)。40cm近いが大物場ということもあり用意してきた普段よりも屈強なタックルで瞬殺。その後はまともな反応なく、僕が大波を三回被ったところで場所替えへ。初日の雨よりもずぶ濡れでショッパイ。一度目は汗の味、二度目はオキアミの味、三度目は涙の味。
嵐の気配は徐々に遠のいていき、晴空にまばらな雨。きっとササヨおばさんの嫁入り。天気は回復したがウネリはいまいち弱まっていない状況。初日の偵察で個人的に釣れるだろうと踏んでいた場所へ行く。我々はその場所を「ディズニーランド」と命名。舗装されていない道を進むアトラクションを通過せねば辿り着けない。しかしここで我々は爪の甘さを思い知らされる。なんとすでに二台、アトラクションを越えた釣り人の車がとまっていたのである。「ディズニーランド」は我々だけの楽園ではなかった。二組の釣り人は目をつけていた釣座、ピンポイントで竿を出している。あまり魚が釣られている気配はないが、せっかくアトラクションを乗り越えてきた釣り場だから。ということでかなり長い遠足を決行してポイントを探索。幸運にも良さげなポイントを発見して一安心し、釣り始め。
開始早々反応はあるものの小魚。おまけに平沢が釣った小メジナはいつもの可愛らしいクチブトメジナではない。そして尾長メジナでもない。それは第三のメジナ、オキナメジナであった。実物を見るのは初めてだった。第一印象は、
地球外生命体のような外見をした魚。サークルの某先輩によるとカンムリベラらしい。デカいのだと1m近くにまでなるらしく、55センチのこの個体はまだ半人前。それでも重かった。この魚に色めき立つも後が続かず時間が過ぎて諦めかけたとき、またも僕のウキが磯際で消し込む。ウキ止めがウキに到達する前にひったくられ、一気に磯際に突っ込まれるも竿を立て直す。突っ込み方でメジナだと確信するもいつもとは違う重量感。合わせを入れ直して必死のファイト。ようやく上がってきた魚はメジナだった。しかし、ブサイクなのである。顔だけではなく、全体が。
オキナメジナ、45㎝。体高がある分、普通のメジナよりも引きが強かった。体色は鯉、口元も細かい歯が無数に並んで海水魚っぽさがない。というか、カンムリベラといい、オキナメジナといい雰囲気が完全に南国である。
そして僕に負けじと竿を振る佐藤にも待望のあたり。
40㎝を超えるサンノジ(ニザダイ)。おなじみの魚にホッとするもサイズ感はやはり南国。この後はめっきり魚影がなくなり水深も浅くなって様変わり。夕まずめに向けて移動。偵察がてらの移動中にハプニング発生(真面目にヤバかったので内緒)。夕まずめの実釣時間がわずかしか取れない事態となり磯へのエントリーは回避して夜釣りを続けて行える漁港に移動。地磯は明日の朝に行けばいい。
佐藤と平沢はライトなショアジギングで探り、頑固な僕はフカセに固執する。足場の良い漁港でまともな魚は釣れないだろうと何の根拠もなく考えて仕掛けを投入すると一投目からウキが消し込む。上がってきたのは35㎝くらいのクチブトメジナ。その後も一投に一匹のペースで30〜40cmのクチブトが釣れる。その様子を見た佐藤と平沢もフカセを始めるもサバの猛襲。しばらくするとメジナの時合は過ぎ去って日が落ちた。すっかり暗くなると電気ウキにチェンジしたフカセは完全な空振り。サバを身エサにしたブッコミに変更した佐藤と平沢の竿には反応があり、期待が高まる。すると平沢の竿がしなる。堤防に響くドラグ音。
って、いや。オジサンやないかーい。デカいけども。
ドラグが緩かっただけなんて(泣)。その後もブッコミは反応あるも佐藤がウツボを釣り上げたぐらい、フカセは撃沈。雨も降り出す始末。
「いや、明日がまだある」
三人がそう思った矢先、僕の携帯に着信が。宿の主人からだった。
「あの、明日の帰りの船の欠航が決まって。明日の朝に来る船で帰っていただくことになるかと」
「明日の朝の船というと、いつ出船でしたか?」
「朝6時ごろ」
現実は非情だ。電話を切った僕は平沢と佐藤に無念を告げて車に向かう。翌日の朝用に買い込んでいたオキアミをどうにか処分せねばならなかった。
二日目の結果を入力:夢の楽園はたぶんフロリダのディズニーランド。現れたエイリアンにSF感を感じるも、その後の登場人物は翁と山の爺、それとオジサン。王道ものを期待していただけになんとも奇々怪々なストーリー。明言できるのはユートピアを動かしているのはシニア世代だということだ|
いつでも思い描いた魚が釣れる釣りなど存在しない。エサだろうとルアーであろうとそうだ。今回の釣行にはまだ続きがある。今回は姿すら見せてくれなかったデカい尾長メジナを釣り上げる。そのリベンジを果たすときまでは終われない。否、終わらない。
To be continued...